ゆたかとエグモント
デンマーク エグモント教員片岡豊によるWEB日記
2006/11
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時がたつのがはやいのは
鹿児島のひろゆきさんが時間が経つのがはやいと別のところで書いていた。なぜ、時間が早く過ぎるように感じるのだろうか。りえこが、子供なら楽しいため、大人なら忙しいためだからだろうというようなことをコメントしていた。付け加えるなら、歳をとって記憶力が劣ってくるのも理由かも。ぼくなんかは、その方で、時間がジョットコースターより早くすぎてしまうように思える。
もうちょっと考えてみよう。時間と「密接」な関係があるのが「空間」。ここでいう「空間」は「人間関係」と言い換えても良いかも。子供の頃は自分と、家族、友達との関係。大きくなるにつれて、学校、余暇活動、仕事などでのお付き合いと広がっていく。そして歳をとると、また家族、そして最後には自分に戻っていく。時間がどの程度、はやく経つように思えるかは、この人間関係としての「空間」の密度によってくると思われる。
自分の悩みに囚われている間は、他との関係がと切れていて、考えが同じところを空回転していて、時が経つのが遅く感じられる場合が多い。逆に、多くの人と一緒に何かをしているときには、時間があっという間に過ぎてしまうという体験をよくする。
アメリカ人の歴史家でクリストファー・ラッシュ(Christopher Lasch)という人が、現代の若者は「ナルシズムの文化」と性格づけられる社会に生きていると指摘している。もちろん、この「現代の若者」の中には、僕も立派に入っている。だから周りの人々と関わり合うよりは、自分の「鏡像」とかかりあうことを選ぶナルシズム的な志向を僕も持っている。ただし「現代の若者」には、このようなナルシズム的な傾向とは異なったもう一つの状態がある。それは、あたかも森の中で迷ってしまい、恐れおののいている状態だ。いつ襲い掛かってくるかもしれない危険から身を守るために、目の前の出来事に注意を向けるだけで精一杯の自分、
このような状態を、デンマークの哲学者であるキルケゴールは「不安」という概念で言い表している。具体的な人や物事に怯える「恐れ」や「怖れ」とは異なって、「不安」は対象がない。周りとの関係を経たれ、底なし穴に突き落とされたような心境になる。そして最後には自分との関係をも見失って、「絶望」にまで落ち込んでいく。それはキルケゴールに言わせれば、「死に至る病」だとされる。
このような状態になると、時は渦巻きのような混沌とした繰り返しのように思え、そこから抜け出すことが出来なくなる。だから、その苦しさから開放されるために時を断ち切ることを望むようになる場合がある。若者の自殺の根本的な原因は、抽象的に言えば、そこにあるのではないかと思う。
週末明けに、長いことお付き合いさせていただいている某氏の次男N君がエグモントに2週間、見学滞在するためにやってくる。N君は中学生から登校拒否になり、数年の間に症状が悪化し、強迫症状、摂食障害、パニック障害などの「引きこもり」症状を抱えているという。
このような「引きこもり」は日本に独特な社会現象で、全国で100万人ほどいると言われている。厚生労働省のHPにも丁寧な説明と指導書が掲載されている。デンマークの新聞でも、最近、日本の「引きこもり」現象について大きく取り上げられていた。
N君は、エグモントにくることで「病気が治る」のではと思って、父親を通して連絡を取ってきたと言う。長年、いろいろ悩んできた本人にしても、また親にしても最後の藁を掴む思いでエグモント行きを願ったのかもしれない。(たぶん、このような解釈は本人は否定すると思うけど)。もちろん、エグモントに短期で滞在したところで、そのようなミラクルは起きないと、何度も説明し、そして、こちらでの受け入れ対応の条件と限界についても、明確に提示したつもりだ。メールで何度も交信をし、エグモントの現役生や同僚たにちにも、できるだけオープンに、彼のことを伝えることに努力してきた。そして出発の日が近づいてきた。果たして、月曜日にコペンハーゲンの空港に彼が現れるのかどうか、今はそれさえも僕は確かではない。
もしN君が無事にデンマークに到着したら、彼とまずゆっくり話し合ってみたいなと思う。彼は一体、デンマークまで来て、何を望んでいるのか、それを聞いてみたいと思う。そして、日本に帰国する時に、デンマークでの滞在は早く過ぎ去ったと感じたか、あるいは遅く感じたかを聞いてみたいと思う。もちろん、僕としては早かったという答えが返ってくることを願っているのだが。
(一度書いたものが、投稿しようとした時に全部消えてしまったので、改めて記憶をたどりながら、これを書き直した。)
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